最終更新日: 2003年5月6日 /修正: 2007年5月
決心してから数日後のあまり寒くない穏やかな日。
母と二人きりになり、今が話す絶好の機会だと思った。
「あのさ……ちょっと話があるんだけど……」
さりげなく話を切り出そうとしたが、ぎこちなくなってしまった。
声も震え気味だったし、すぐに何か重要なことなのだと悟られた。
母が今まで見たことがないほどの真剣な表情になった。
「えーと……」
次の言葉がなかなか出てこなかった。
冷静に話せるつもりだったのに、頭がまっしろになって何から話したらよいか分からなくなってしまった。
その日までに何をどの順番で話すか計画を立てていたんだけど……。
「あの……えーと……実はね……」
話す前から既に気持ちは「いっぱいいっぱい」になってしまっていたので、決めていた順番はとりあえず無視して、思いついたことから話すことにした。
△
子供の頃からずっと自分の心が男ではないようだと感じていて、体が男性的になるのが嫌だったこと。
誰のせいでもなく、育て方のせいなどでもないこと。
ボク自身も昔から人と変わっているのを楽しんでいるような所があって、辛いとか苦しいとかばかり思ってきたわけではないこと。
△
病気とか障害とか言われているけど、少なくても本人はそんな風には感じていないこと。
(実際、GIDの「D」の「 Disorder 」は混乱というような意味だ)
ボクが珍しい「タイプ」だったということでそのことを特別だと思っていないこと。
もしも男性の一般的な性格だったら、今頃もっと嫌な人間になっていた可能性が高いと思っていること。
△
心は男だと思っていて、好きなのは女なんだけど、その好きの度合いがすごく弱いので心は「中性」だと思っていること。
性体験にほとんど関心はなく、未経験であること。
精神的に無理なことだけど、このまま続けると肉体的にもできなくなること。
同性の人が好きなわけでもなく、ニューハーフの人みたいになりたいというわけでもないこと。
△
このまま続けていくと不妊になって回復しないので、自分の子供を作れなくなること。
そして、奥さんや子供を幸せにする自信はないし、将来も結婚するつもりはないこと。
(これを言うのが一番辛かったかも……)
もしも何かの拍子で結婚していたら、今頃は奥さんや子供まで不幸にしていたかも知れないこと。
△
体を心に近づけるために女性ホルモンを使っていて、
体が女性化してくるに連れて「居心地」の良いものになってきたこと。
・最近は胸が膨らみ始めてきたこと。
・男性の生理現象がなくなってほっとしていること。
・女っぽい男になりたいのではなく、男でいることが嫌だということ。
涙があふれ出そうになった時もあったけど、チョコレートを持ってきて食べてごまかした。
あまり甘く感じなかったけど、それでだいぶ気が紛れた。
「何か食べると落ち着くって言うのは本当だったんだな……」と妙に感心してしまった。
いつの間にか母も食べていた。
緊張感が和らいできて、話せなくなるような状態にまでならなくて済んだ。
一通り話し終わった。
もちろんこんな経験は初めてだから大変だった。
気持ち悪がられるかも知れないと少し不安に思っていたが、そんなことはなかった。
そういうような「趣味」があるということが気づかれていたのは分かっていたし……。
相手が母とは言っても、人前で心をさらけ出して無防備な状態でいるのは、
心の裸の部分を見られるみたいで、恥ずかしいような何とも言えない気持ちだった。
少し落ち着いた後……。
ボク自身が自分の性質をけっこう気に入っていて嫌なわけではないことと、
誰かのせいでこういう風になったわけではないことを改めて強調した。